インドア派Around40ゲイの日記

アラフォーゲイが日々のことや過去のことを書きなぐるブログ

本の紹介-14 村田沙耶香「殺人出産」~100年後には常識が変わるかも

「ジャケ買い」という言葉ってまだ生きているのでしょうか。CDや本なんかを中身は知らないけれども、パッケージ(CDジャケットや本の表紙)のデザインを気に入って、そのCDや本を買うってことです。最近は「CDを買う」という行為自体が減ってきていますよね。僕はジャケ買いということをしたことはないのですが、本の場合「タイトル買い」というのをしたことはあります。タイトルから興味をそそられて購入したということです。今回はそんな本です。「殺人出産」ってすごいインパクトじゃないですか?

殺人出産 (講談社文庫)

殺人出産 (講談社文庫)

 

「産み人」となり、10人産めば、1人殺してもいい──。そんな「殺人出産制度」が認められた世界では、「産み人」は命を作る尊い存在として崇められていた。育子の職場でも、またひとり「産み人」となり、人々の賞賛を浴びていた。素晴らしい行為をたたえながらも、どこか複雑な思いを抱く育子。それは、彼女が抱える、人には言えないある秘密のせいなのかもしれない……。 

村田沙耶香さん、「コンビニ人間」で芥川賞を受賞されましたので、ご存じの方も多いと思います。「コンビニ人間」も読んだことがありますが、結構癖のある内容だったと思います。こちらはそれ以前に書かれたもので、「楽しく読める」というものではないなぁと思いますが、難しい話ではないため読み進めるのは簡単でした。

「人を殺してはいけないのはなぜか」という大昔からの問がありますが、この世界では法にのっとれば人を殺してもいい世界です。なお、舞台は「『人を殺してはいけない』とされいた世界から約100年後」となっています。この時代は、出産は人口受精がメインで、恋愛・結婚による出産はほぼなくなっています。女性は初潮を迎えると避妊処理を行うため、人口減少が進んでいました。それに歯止めをかけるため、「殺人出産」という制度が設けられました。誰かを殺したいと希望する人は、「産み人」となり、10人の出産を目指します。10人の出産を無事にできた人は、1人を殺すことができるのです。殺される人は「死に人」と呼ばれ、決して逃げることはできません。また、「産み人」は男性でも問題ありません、人工子宮をつけることで出産が可能なのです。

これ以外の方法で人を殺すことは禁じられています。人を殺したら、「死刑」になりえるのが今の世界ですが、この世界では逆の「産刑」という刑に処され、死ぬまで出産に従事させられます。

と、ここまで自分で書いていて想像の範疇を超えている世界だなと思ってしまいます。逆に、だからこそすっと読めてしまうのかもしれません。あんまり事細かく想像を巡らせることのできる方は、読み進められないかもしれないです。

人工授精がメインという世界だと、それこそ子供を持つのは異性間に限られないでしょうし、この世界のようにそれこそ作業のように人口を増やしている世界では、人種といった概念も薄くなっているのかもしれないですね。

小説内にも出てくるのですが、10人を産むということは実際には20年近くかかることで、そんなに長い間殺意を持ち続け、そして、念願かなったとして、その人を殺すときに何を思うんでしょうね。

もしかしたら、これが100年後の常識の世界になっているのかもしれません。携帯電話というのが100年前には信じられない世界だったように、これから100年後には何が常識になっているかなんでわからない、ということも考えさせられる1冊でした。

 

ほかにもいくつかの短編が収録されていて、すべて「生」「死」「性」といったことがテーマで、やはり一癖ある作品たちとなっています。万人受けするような作品ではありませんが、今の常識を一度疑ってみるのもいいかもしれません。